淵に立つ2017年08月24日 10:52

こういう役柄やらせたら浅野忠信の右に出る者はいないんじゃないか、と思うほど、浅野忠信のはまり役。
でもお父さん役の古館寛治も、ものすごく良かった。
この男達がふたりきりになった時、お父さんの態度が、高校生くらいの若者の頃に戻るのである。そのことで二人の昔の関係性を如実に表してくれる。その演技が秀逸だった。

「淵に立つ」は日本の映画です。WOWOWで放送されていたのを観ました。去年、衝撃作と話題になっていたので。
以下、ネタバレを含んだ感想です。

浅野忠信と古館寛治、二人の男は、何となく似ている。しゃべり方とか、独善的なところとか。
一般的に、たいていの男の人は、かなり自分勝手というかひとりよがりというか、あんまり家族の女子供の気持ちを考えない。というか、何というか、自分の固定観念にとらわれすぎてて、本当の意味で相手の事を全く見ていないというか、相手の気持ちを考えようとしないというか、そういう人が多いと思う。
たまにそうでない人もいるけれども、昔の時代であればあるほど、家父長制の固定観念にとらわれて、幻想のあるべき父親像、こうあるはずだの女房像にゴリゴリに凝り固まって、結果として最も身近な存在であるはずの奥さんの本来の姿を全く見ておらず、意思の疎通が全くできていなかったりするように思う。
それでいて本人は気持ちが通じていると思い込んでいたりしてて、ある日突然熟年離婚を切り出されて面食らったりするんだよね。
おそらく、そういう男性像を二人の男が重なるように演じている。
浅野忠信が途中「私は4つの間違いをしていました」というような台詞を言うのだが、これはそっくりそのまんま古館寛治演じるお父さんに当てはまっている。

「娘が障害者になってしまうのも、自分達への罰だと思ったよ」とか「正直娘が障害者になってよかった。あの時から俺たちは本当の夫婦になれた」とか、そんな風なかんじの発露をしたお父さん。あまりの告白に呆れ、我を失いそうになるのを、必死に押さえ込もうとする奥さん。奥さんからすれば「はあ?」だろうし、映画を見てる側の私も、このお父さんの発言にはぞっとした。親の罪を子供が負うのか。おかげでようやく本当の夫婦になれただの、身勝手にもほどがある。あんたは良かったのかしらんけど、奥さんや子供からしたらたまったもんじゃない。どこまでいっても自分中心にしか物事が見れない。奥さんや子供はおまえの付属物じゃないんだぞ!と、強い反発感を覚えた。

親の罪を子供が償うべきなのか

これはこの映画に存在するもう一つのテーマだと思う。

私たちは考える。殺人を犯した人間を、ちゃんと刑務所で罪を償った人間なのだから、普通に接するべきなのか。どうしても警戒してしまう自分をこそ戒めるべきなのか。それとも、一度殺人を犯した人間はもう二度と信用してはいけないのか。信用すべきなのか。そんな人でも生きていかなくてはならない。更生のため手をかすべきなのではないか。でもその結果、自分も犯罪被害者になってしまう。
自分の一番大切なものを壊されて、それでも恨むことをしないでいられるのか。その男の息子を、全くの別人格なのだからと、平然と付き合うことができるのかどうか。

今週刊モーニングというまんが雑誌で連載している「テセウスの船」では、父親が犯したとされる罪のおかげで、その子供がまともな仕事にもつけず、せっかく仕事についてもあの父親の息子だとばれたとたん解雇される話からはじまっている。そんな物語を読むと、殺人を犯した父親と子供とは別人格なのだから、子供が自殺するしかない状況に追い込むなんてかわいそう、と思ってしまうけれども、「淵に立つ」の映画を観て犯罪被害にあった側に立つと、どうしたってむしずが走ってとうてい受け入れられるはずがない、父親の身代わりに息子を殺す、あるいは父親に自分と同じ苦しみを与えるために息子を殺したいと思う気持ちに共感してしまう。いやそんなこと、思っちゃダメ、と思う自分がいる。でも、この映画に出てくるお母さんのように、自分の一番大切な一人娘がひどい目にあったとしたら。。このお母さんが「いい人」でいられなくなったのと同様、自分も自信持てない。

きれいごと言って、いい人ぶっていられるのも、自分がまだその不幸にみまわれていないからこそなのか。。。
もしそのような不幸にみまわれても、それでも、かつて殺人を犯した人間を信じぬくことができ、自分の子供の人生を奪われても、犯人やその家族を殺したい気持ちを抑え込められるのだろうか。
それができてこそ、本当の「人格者」ということになるのだろうな。

平和の道はかくも遠く険しい。

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